私はどちらかというとレンズは実際に使ってみて判断する方なので、MTF曲線とかはあまり見ないのですが、MTFチャートでレンズを判断している方はちょっと気を付けた方がいいよというお話。
たまにSONYのFE600mm F4 GM OSSの「MTFチャートが天井に張り付いていてスゲー」という話を耳にするので、それを理由にSONYを選んだ人はちょっとショックを受けるかもしれません。
各社のMTFチャートの違いについてのお話ですのでMTFチャート自体の見方は各社のページを参考にしてください。
各社が公開しているMTFチャートは統一規格ではない
「波動光学的MTF」と「幾何光学的MTF」
レンズのMTF曲線は、メイカーのページに行けば見ることができますが、実は「波動光学的MTF」と「幾何光学的MTF」という2種類のMTF曲線が混在しています。
「公開されているMTFチャートは統一規格ではない」
ということをまず憶えておいてください。
測定の方法自体もメイカーによって異なりますので、同一メイカーならまだしも違うメイカーが公開しているMTFチャートを見比べて、レンズ性能を比較するのは全く無意味です。
MTF曲線について、真摯に対応しているのはSIGMAではないかと思います。
以下にSIGMAサイトからの抜粋です。
MTFには光の波動的性質を考慮した「波動光学的MTF」と考慮しない「幾何光学的MTF」があります。
光の波動的性質は光の回折現象として現れますが、回折現象はF値が大きくなる(絞り込む)ほど顕著で、像の解像度を低下させる原因になっています。また、回折現象は開放状態でも発生しており、弊社では、当初から実際の撮影データに近い「波動光学的MTF」を掲載しております。
一方、光の波動的性質を考慮しないMTFは「幾何光学的MTF」と呼ばれ、簡易的に計算できるメリットがあります。しかし、回折現象を考慮しないためF値が大きくなるほど実写性能よりも値が高くなる傾向を持っています。
弊社では、エディションナンバー013以前の製品には「波動光学的MTF」、014以降の製品には「波動光学的MTF」と「幾何光学的MTF」の2つのMTFチャートを掲載しております。
https://www.sigma-global.com/jp/glossary/diffractionmtf_geometricalmtf/
同じレンズでどのくらいMTFチャートが違うのか
SIGMAのサイトでは実際に、「波動光学的MTF」と「幾何光学的MTF」の2つのMTFチャートが掲載されています。
SIGMA 500mm F4 DG OS HSM
見てわかる通り、F4くらいのレンズになると開放状態の回折現象が大きくなるため、「波動光学的MTF」と「幾何光学的MTF」の違いはかなり大きくなります。
幾何光学的MTFの方はすでにチャートの意味をなしていませんね。
では各社どちらのMTFチャートを採用しているのか?
キヤノン:「波動光学的MTF」
ソニー:「幾何光学的MTF」
ニコン:「幾何光学的MTF」
オリンパス:「波動光学的MTF」
富士フィルム:「幾何光学的MTF」
タムロン:「幾何光学的MTF」
シグマ:「波動光学的MTF」「幾何光学的MTF」https://a-graph.jp/2021/11/10/65567
https://www.chanmasa-studio.com/mtf1/#toc3
このあたりからなんとなく会社の姿勢のようなものが見えてくる気がします。
波動光学的MTF
キヤノン、オリンパスの2社は「波動光学的MTF」のみを公開しています。
前述のとおり、「波動光学的MTF」は実際の撮影データに近いものですので、「幾何光学的MTF」より不利なMTFチャートになります。
「幾何光学的MTF」はある程度のレンズになると、ほぼ天井に張り付いてしまって、レンズ性能を比較するチャートとしては意味をなしません。
ですので、この2社は「他社より性能を高く見せるためではなく、性能の評価に有効なものを掲載している」といっても差し支えないのではないかと思います。メイカーとしてのプライドなのか余裕なのか。
キヤノンやオリンパスについては、これでは他社よりレンズ性能が低く誤解されてしまうので、レンズオーナーのためにもしっかり説明なりを入れるのが良いのではないかと思います。
シグマは両方公開しているのでとても誠実ですね。
シグマのおかげでこの2つのMTFチャートが混在していることを知った人も多いのではないかと思います(私もそうです)。
以下にCanonのロクヨンのMTFチャートを貼っておきます。
Canon RF600mm F4L IS USM
幾何光学的MTF
ソニー、ニコン、富士フィルム、タムロンがこちらを採用しています。
まぁ、どちらかというと「レンズの性能をより高く見せるために幾何光学的MTFを選んでいる」というのが正直なところなんじゃないかと思います。
もちろん商売に有利になる方をとるのは、会社として正しい選択です。
ただ、それならば掲載しているページに「幾何光学的MTF」である旨を記載するべきなのではないかと思います。
そんな義務はないというのはわかるのですが、違う基準で掲載している他社がいる以上、ユーザーが誤解しないようにするのが筋じゃないですかね?
正直なところ、ニコンが「幾何光学的MTF」を掲載しているのはかなり意外です。
というのも、600mm F4を見る限り幾何光学的MTFにしてはちょっと性能面がよろしくないです。
AF-S NIKKOR 600mm f/4E FL ED VR
https://www.nikon-image.com/products/nikkor/fmount/af-s_nikkor_600mm_f4e_fl_ed_vr/spec.html
先日発売された800mm F6.3の方は、幾何光学的MTFらしく天井に張り付いているので、600mmの方は発売時期も7年前と古いこともあって、性能が少し劣る感じなのでしょうかね…?
赤線が1から始まってる = 回折現象を考慮していない ので、600mmの方も幾何光学的MTFではあるはずです。
以下は800mm F6.3のMTFチャート。
NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S
https://www.nikon-image.com/products/nikkor/zmount/nikkor_z_800mm_f63_vr_s/spec.html
そして、以下はSONYのロクヨンのMTFチャートです。
SONY FE600mm F4 GM OSS
FE 600mm F4 GM OSS 特長 | デジタル一眼カメラα(アルファ) | ソニーソニー デジタル一眼カメラα(アルファ) 公式ウェブサイト。デジタル一眼カメラα(アルファ)FE 600mm F4 GM OSSの商品ページ。FE 600mm F4 GM OSSの特長をご紹介いたします。
はい、ほとんど天井に張り付いていますね。
とても幾何光学的MTFです。
見比べてみよう
各社の600mm F4のWEBページで掲載されているMTFチャートを並べてみました。
「波動光学的MTF」と「幾何光学的MTF」のどちらで掲載しているのかは私が見た限り、各社WEBページにはありませんでした。
ぱっと見ると「SONYのロクヨンすげぇ」ってことになっちゃうんですが、これまでお話した通りでSONYのMTFチャートは「幾何光学的MTF」です。
上記のようにSIGMAの500mm F4では、同じレンズで「波動光学的MTF」と「幾何光学的MTF」でここまで差がでます。
そういう観点から考えるとCanonのロクヨンも「幾何光学的MTF」で掲載すると、SONY同様でほぼ天井に張り付く可能性が高い。
ただ、SONYの方は本当に天井に張り付いているので「波動光学的MTF」で掲載したとしても、かなり良い結果のはず。
まぁ結局のところ、違うメイカーのMTFチャートを見比べても何もわからないというのが結論です。
まとめ
- レンズのMTFチャートには「幾何光学的MTF」と「波動光学的MTF」がある
- 「幾何光学的MTF」での計測の方が「波動光学的MTF」よりもかなり良い結果になる
- MTFチャートは各社基準がバラバラで、同一メイカーでの比較くらいでしか意味がない
- SIGMA以外のメイカーのページには特にどちらのMTFかの記載はない
野鳥撮影はどうしても超望遠レンズを使いますので価格が高価になりがちです。
MTFチャートだけでレンズ性能を評価して購入すると、後で「しまった」ということになりませんので気を付けましょう。
許されるならば超大手家電量販店など、在庫を展示している店で自分のカメラで試写させてもらって見比べたり、レンタルを利用するなりして比較してみることをお勧めします。
ただ、ロクヨンなどはレンタル料が凄いのと試写って何を撮るのよ?って話になるので
- 自分のボディと気になるレンズの組み合わせの作例を、ネット上でできる限り探して評価する
- 鳥の種類と写真のピクセル数から大体の距離を計算して、自分が満足できるものか評価する
などが実際の落としどころと思います。
ロクヨンは新品購入すると大体165万円くらいです。
リアルな話、期待外れで買い替えた場合は大体差額で40~50万ほどの損失が出ます。
良いカメラボディやレンズがセットで買えてしまう金額ですね。
私の場合はかなり昔に中古購入のEF500mm F4L IS USMを使っていて、Canonの大砲がどのくらい凄いかは知っていましたし、前はEF600mm F4L IS II USMを使っていたため、あまり評価することもなくRF600mm F4L IS USMを選択しました。
実際に使ってみて、全く不満はありません。
みなさんも高額なレンズを購入する際はできる限りの調査をして悔いのないようにしましょう 🙂